ピエタリ・インキネン氏
3月13日 杉並公会堂
財団法人 日本フィルハーモニー交響楽団
ピエタリ・インキネン《首席客演指揮者》記者懇談会 (司会:奥田佳道氏)
フィンランドの期待の若手指揮者ピエタリ・インキネンの「シベリウス・ツィクルス発動」を記念して開催された記者懇談会に行ってきました。
まずは、リハーサル現場におじゃまします。
インキネンが音楽を作っていく過程は本当にスリリングです。
短い言葉とともに彼の指揮棒が一閃すると、オーケストラの音と響きが瞬時に変化します。
このやりとりは親密であり信頼感に支えられたもので、これまでの良い関係をうかがわせるとともに、「日本のシベリウスの原点」である日本フィルハーモニーの力量をまざまざと見せつけられるものでした。
1時間ほどのリハーサルが終了。
場所を移して記者懇談会が始まりました。
Q.
最近の活動についてお聞かせ願えますか?
A.(ピエタリ・インキネン)
今年はワーグナーの生誕200年ということで、イタリアのマッシモ歌劇場で、「ニーベルングの指環」を上演しています。すでに「ラインの黄金」と「ヴァルキューレ」は5公演行いました。「ジークフリート」と「神々の黄昏」も演奏します。
日本フィルとは9月に「オール・ワーグナー・プログラム」を振る予定で、こちらは演奏会形式ですが「ヴァルキューレ」第1幕と、「ジークフリート牧歌」、「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲と愛の死を演奏します。
歌手も最高の人を揃え、とりわけテノールのサイモン・オニールとは、度々共演していて、お互い信頼を寄せています。
2014年には日本フィルと初の九州ツアーを行います。
九州を訪れたことはないのですが、セッポ・キマネン氏(チェリスト、駐日フィンランド大使館報道・文化担当参事官。北九州音楽祭を主催)から九州の素晴らしさを伺っており、新たなオーディエンスとの邂逅をとても楽しみにしています。
Q.
シベリウスについていかがですか?
7曲を演奏するにあたって、曲の組み合わせ方にもとても興味があります。
お考えを教えていただけますか?
A.
2008年に初来日した際、最初に日本フィルから「このオーケストラはシベリウスの権威である渡邉暁雄が創立したこと」を聴き、その録音も聴かせていただきました。
その時はチャイコフスキー、その翌年はショスタコーヴィチを演奏したのですが、2010年と2012年にはシベリウスの劇音楽や交響詩を、マーラーの交響曲と組み合わせて演奏し、自分にとってもなじみの深いものとなっています。
日本フィルとの交響曲は初となりますが、とても良い演奏ができそうです。
組み合わせ方についてですが、今回の全曲ツィクルスでは
3月…1番&5番
4月…4番&2番
5月…3番&6番&7番
の順序で演奏します。
時系列で並べる方法もありますが、これはとてもバランスが悪く、
第1番と第2番はロマンティック過ぎるものですし、第3番はスタイルが格段に変化します。第4番は更に凝縮されていますハーモニーが重視されています。発展の第5番を経て、第6番と第7番はよく似たスタイルを持っています。今回の演奏曲は、とてもバランスがよいと思っています。
Q.
第5番には1915年の「初稿版」も存在しますが、こちらはいかがでしょう?
A.
この曲はとても有機的(オーガニック)に発展していきます。
もちろん、改訂版の方が完成された形であるので、私はこちらを支持します。
Q.
シベリウスは一時期ウィーンにいましたが、その際マーラーやR.シュトラウスの影響を受けていると考えてもよいでしょうか?
A.
明らかに第1番と第2番にはその伝統が反映されていると思います。
ブルックナーの影響も見逃せません。とりわけブラスセクションにはそれが顕著です。
Q.
さきほど、第6番と第7番は「良く似ている」とおっしゃっていましたが、
演奏する際、6番で拍手をすることなく7番につなげるというのはいかがでしょう?面白いように思います。
A.
確かに。以前続けて演奏したことがあり、曲の意図が伝わったように思います。今回も通して演奏することにしようと思っています。
Q.
インキネンさんの中にも「SISU<シス>…フィンランドの不屈の魂」は受け継がれていますか?
A.
もちろんです。私の遺伝子の中にしっかり入っています。
この魂は日本人にも通じるものがあるのではないでしょうか?勤勉さなどは得に。
会場のお客様からも、いくつかの質問があがりましたが、その中から一つ。
Q.
「マーラーとシベリウスの関係についてはどうおもっていらっしゃいますか」
A.
どうもシベリウスはマーラーを好きではなかったようですね。これは伝聞ですが、マーラーがシベリウスに一度だけ会った時「あなたは私に何番の交響曲を指揮してほしいですか」と聞いたところシベリウスの返事は「否」。
「どれも演奏してほしくない」と言ったとか(笑)。
作曲家としてもタイプは全く違いますね。
また奥田さんからのインタビュー。
Q.
オペラについて今後の予定をお聞かせください。歌劇場からのオファーはありますか?やはりワーグナーに興味がおありですか?
A.
若い頃(今も若い!)、フィンランド歌劇場でチャイコフスキーの「エフゲニ・オネーギン」を振りました。この演目は何度も振っています。
色々な歌劇場からオファーをもらっていて、R.シュトラウスなども候補があるのですが、今はやはりワーグナーです。前述のマッシモや日本フィルとの予定もありますが、一番演奏したいのは「トリスタン」です。テノールのサイモン・オニールは要チェックです。
演奏している時はとても厳しいインキネンさんですが、
素顔の彼は、焼き肉、お寿司、ワイン、そしてラーメン大好きな好青年。
荻窪周辺のラーメン屋さんは悉く制覇済で、本日のリハーサル中も30分の休憩時間に行きつけのラーメン屋さんに駆け込むほどの「通」でもあります。
終了後、少しだけ直接お話を伺い、2回も握手してもらって、その手の大きさにも感動。NAXOSジャパンとしては、最初の来日時からバックアップしていることもあり、今後も暖かく見守っていきたい。と心に決めたのでした。
[レポート:ナクソススタッフ1号]
「インキネンのシベリウス・チクルス」公演についての詳細は、日本フィルウェブサイトでご確認ください。