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ラヴィーナ, ジャン・アンリ(1818-1906)

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    レスポワール(伊藤順一)

    【フランス三大音楽院であるパリ国立、リヨン国立、パリ・エコール・ノルマルで薫陶を受けた伊藤順一のフランス・エスプリを味わう。】フランス三大音楽院であるパリ国立、リヨン国立、パリ・エコール・ノルマルで研鑽を積み、シャトゥ(フランス)、ステファノ・マリッツァ(イタリア)、マウロ・パオロ・モノポリ(イタリア)、ニース(フランス)の各国際コンクールでグランプリに輝いた伊藤順一、待望のセカンド・アルバムです。まさに生粋のフランス仕込みならではの洗練された解釈や透明感溢れる音色は、伊藤の真骨頂です。他の追随を許さない真のエスプリをご堪能下さい。アルバム「レスポワール」に寄せて この度は、セカンド・アルバム「レスポワール」をリリース出来ましたことを嬉しく思うとともに、制作に携わって下さった方々に改めて感謝申し上げます。レスポワールとはフランス語で希望や期待という意味があり、それを曲から感じ取る、または見出したいと思い名付けました。 デビューアルバムの発売後から、セカンド・アルバムはフランス作品のみに焦点を当てると決めていて、今回はフランスを代表する作曲家のフォーレ、ドビュッシー、ラヴェルの作品と、当時音楽サロンで演奏されていた知られざるラヴィーナの作品も収録しました。私自身、計8年間のフランス留学で感じたフランス人の感性を少しでも表現出来るよう、想像を膨らませ、音色の多彩な変化に取り組みました。 フランスを代表する3人の作曲家は、同じフランス人でも雰囲気や音の性格が全く異なるので、その点を明確に表現したつもりです。また、ラヴィーナの作品は、当時サロンで演奏されていた気軽で馴染みやすいメロディーの曲なので、軽快さと物語を思い浮かべながら演奏してみました。 時に、希望を見失ってしまうかもしれない困難な時代ですが、決して本質を見失わず、期待を持って音楽とともに未来に向かって歩んでいきたいと思います。                                                            伊藤順一(2023年12月)伊藤順一、そのピアニズムの魅力――意思の充溢と音の造形術 演奏家の魅力はさまざまである。インパクトのある第一印象でぐっと人を惹き付けるピアニストもいれば、その魅力が聴くたびに少しずつ姿を現すピアニストもいる。 初めて聴く人にとって、伊藤の演奏の魅力を一度で捉えきることはおそらく難しい。しかしそれは、決して伊藤の演奏にインパクトが欠けているということではない。そのインパクトは、時間をかけて伊藤の演奏と向き合う人に、大地に雨がしみこむように、じっくりと浸透していくのだ。 こうした伊藤の演奏の魅力の鍵は、演奏の隅々にまで充溢した意思にある。全体の構成、フレージング、声部の聴かせ方、音色をつくる倍音、音の飛ばし方など、ピアノ表現のあらゆる面において、明確なビジョンがあるのだ。言い換えれば、きわめて情報量の多い演奏表現ということであり、一聴しただけではその魅力の片鱗に触れるだけで音楽は通り過ぎてしまう。しかし、二回目に聴くと、一回目に気づいたのとは別のところで新しい気づきがある。またしばらく日を置いて聴くと、再び新たな発見があり、これが際限なく続く。平たく言えば、「飽きが来ない」のだ。 なぜそのような演奏が可能なのだろう。演奏会のステージに立つとき、伊藤は会場のあちこちに自分の耳を置き、聴かせるべき旋律は真っ直ぐに飛ばし、伴奏声部は弧を描くように届くようなイメージを描くという。音がどのように聴き手に届くのかを判断し、瞬時にコントロールする技量は、表現のあらゆる側面に見出される。 演奏会場やピアノの条件はいつも同じとは限らず、演奏家はその都度新たな音づくりを迫られる。それを可能にするのは音と時間の造形的創造力とでもいうべきもので、異なるピアノ、異なる楽曲で演奏しながら、瞬時の判断で音響の像を作り上げていく。こうした音の造形術を、伊藤は持ち前の鋭い耳と感性によって身に着けてきた。楽譜に書かれることのない倍音に意識を凝らし和音を絶妙なバランスで響かせる耳と指は、師であるアンリ・バルダの演奏とも無関係ではないだろう。この繊細さが、ドビュッシーをはじめとするフランスのピアノ曲において得難い美点として表れていることは言うまでもない。 音の造形術に加え、伊藤の演奏の魅力はその雄弁な語り口にもある。音の物語として聴き手に語りかける伊藤の演奏の秘訣は、感情のパレットの多彩さにある。たとえば「喜び」という色の中には「主人公の喜び」や「他人が喜んでいるのを見る喜び」があり、「悲しみ」の中には「過去を思い出す悲しみ」や「現在の悲しみ」、あるいは「同情」がある。感情の質を見抜くばかりでなく、伊藤は感情の量にも思いを凝らす。たとえば f(強く)という楽譜上の指示は、もはや物理的な強度ではなく、感情の密度である。楽譜上の記号を越えて生きた感情を直覚する力は、子どもの心模様を描くアンリ・ラヴィーナ《初めての告白》でも存分に発揮されている。 このCDは、ライヴとは異なる録音用に整えられた環境で収録されたが、伊藤はライヴの音色を再現することに注力している。実際、客席で人間が聴くのとマイクが物理的に拾うのでは、音が相当に異なるため、随所でタッチを変えるなど工夫を凝らしている。そのおかげで、音色の理想の基本的な部分については、奏者が目指すビジョンを充分に味わうことができるだろう。この録音で伊藤順一の魅力に触れた方はぜひ、伊藤順一の演奏会に足を伸ばして、彼の音の造形の瞬間に立ち会っていただきたい。そのたびに、新たな魅力を発見することになるだろう。                                                                上田泰史(音楽学)(2024/01/24 発売)

    レーベル名:ART_INFINI
    カタログ番号:MECO-1081