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【インタビュー】「蜜蜂と遠雷 音楽集」に携わるプロフェッショナルたち ~ Vol.2 装丁家・鈴木成一さん

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発売日までいよいよあと少しとなった「蜜蜂と遠雷 音楽集」。
ナクソス・ジャパンでは、この制作に携わったキーパーソンにお話をうかがいます。
第2回目は、この本のデザインを担当した、装丁家の鈴木成一さん。
日本を代表する装丁家として、数多くの“本の顔”を生み出してきた鈴木さんに、「蜜蜂と遠雷」誕生にまつわる制作秘話をうかがいました。


取材・文●劉優華



鈴木成一

鈴木成一●装丁家
Seiichi Suzuki

1962年北海道生まれ。筑波大学芸術研究科修士課程中退後、1985年よりフリーに。1992年(有)鈴木成一デザイン室設立。1994年講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。エディトリアルデザインを主として現在に至る。「鈴木成一装丁イラストレーション塾」講師。著書に『装丁を語る。』『デザイン室』(いずれもイースト・プレス刊)、『デザインの手本』(グラフィック社)。





インタビュー


 ────まず、装丁家の仕事がどういうものなのか、教えていただけますか?

 基本的には、書店で売られる本のデザインをすることです。出版社から依頼を受けてデザインするわけですが、担当編集者の意向とゲラを読んだ印象など諸々から発想して、どういった形に落とし込んでいくかという作業。判型や使う紙、文字の書体、どんな絵や写真を用いるかなど、本の内容に即した演出を全般的に考えていきます。

 実際にディレクションして、絵を使いたい場合は画家に描いてもらったり、写真ならカメラマンに撮ってもらう。必要であれば文字を作ることもあります。文字組み、どんな書体がいいのか、見出しはどう入れるか、ノンブルはどうするか…といった細かいところまで考えます。本文用紙であれば、全体的にどのくらいの厚さにしたいか、肌触りや色なども考慮します。全体にわたって、本の個性やオリジナリティーを演出するのが、装丁家の仕事です。


 ────どのような経緯で、装丁家を目指されたのでしょうか?

 もともと装丁家を目指していたわけではありません。大学時代に演劇のポスターを作っていて、その劇団の主宰者が戯曲集を出すことになり、装丁を頼まれたのがきっかけで、この仕事に携わるようになりました。大学での専攻こそグラフィックデザインではありましたが、具体的な本のデザインまでは教えていなかったので、当時は版元や印刷所、出版社に聞いたりしながら、まさに見よう見まねでやっていましたね。偶然その本を見た編集プロダクションの方から「うちで企画しているものもやってくれ」とお声掛けいただき、そこからいろんな版元の仕事を請け負うようになりました。

 この仕事に関して自ら営業した記憶がなくて、頼まれたらやる、という環境でずっと続けてきました。自分が装丁家になりたいというよりは、何となく世の中に決めてもらったというのが実情で、きっとこの仕事に向いていたんでしょうね。


 ────本をデザインする上で鈴木さんがこだわっていらっしゃるのはどんなところですか?

 昔は、画家が余技として装丁を行っていました。彼らの美的センスを生かし、装画を描いたり、紙を選んだり。ですから、装丁は専門的な仕事ではなかったんです。詳しい歴史はさておき、装丁家が専門職として成り立つようになったのは、1960年代頃からなんじゃないかなぁ。

 装丁家にはいろんなタイプがいます。作家性の高い人もいれば、より社会性のある広告系の人もいたり、同じデザインと言えども、やり方はさまざまです。

 私自身は、作家的ではありません。作家的にやるとどういうわけか芳しくない。いま生まれようとしているその本が持つ、まさに他ではない個性を見える形に演出するのが私の役割。デザインの根拠はあくまで本の持つ内容から出発します。常に心がけているのは、造形的にかっこいいとか美しいとかではなく、“本の持ち味をどう見せるか”ということでしょうか。



鈴木

本の持つ個性を見極め、それぞれの“顔”を創り上げていく



 ────「蜜蜂と遠雷」を初めて読まれた時はどんな印象を受けましたか?

 まさに、すごい!のひとこと。著者の恩田陸さんとは長く一緒にやってきているので、当然小説が上手いのは言わずもがなですが、それでもどこかに突っ込みどころってあるじゃないですか。作家の思い込みであったり、偏見であったり。「蜜蜂と遠雷」ではそういった瑕疵や破綻がまったくなかった。1字1字すべてに意味があり、まるで精巧にできた建築物のような…。終わりに向かってとてつもないものがどんどん積み上げられていくような感覚といいますか。構築する技法も含めて、完璧だと思いました。


 ────では、恩田さんの印象は?

 呑兵衛ですね(笑)。それは冗談ですが、恩田さんはまさに“職人”。この作品に関しては、職人の域を超越したと言ってもいいんじゃないでしょうか。非常に頭が良いからなのでしょう、平易な言葉にもかかわらず、物語の世界観に惹き込む力は、私が語らずとも誰もが認めるところでしょう。

 恩田さん自身が楽器を弾かれることもあって、音楽のことをよくご存じだと思います。この小説の中で描かれている音楽は、人間が想像して未知の領域に連れて行かれるような、そういう経験に私は感じるのですが、きっと恩田さん自身が同じような音楽経験をしているからこそ、書けるのではないかと思っています。

 音楽って、言葉で想像させる一番の素材なんじゃないでしょうか。登場人物の演奏を「読む」だけの読者が、主人公たちの演奏を想像によってまざまざと「聴いてしまう」という…。やはり恩田さんの力です。扱う相手が音楽だけにちょっとズルイ。ヤラレた!って感じですね(笑)。


 ────なるほど。そんな“完璧な”作品をどう見せるべきだと思われましたか?

 そんなこともあって、この作品は“ファンタジー”だと思いました。恩田さんはこれまでにミステリーやホラーなど、さまざまな作品を書かれてきましたが、例えばミステリーなら、物語の中に作家によって作為的に仕掛けられたネタを読者は鑑賞するのであって、あくまで作家の企みという関係の中で完結します。それに対してこの作品は、出だしから終わりまで音楽の世界。読む人それぞれによってどこまでも果てしなく想像してしまいます。ミステリーのような際限がない。その果てしのなさが“ファンタジー”だなぁと。それで、この絵を選んだんです。

 自然と湧いてくるようなイメージを何とか装丁にできないかというのが、今回の装丁の要でした。イメージがはっきりしていたので、とにかく気に入る絵を納得するまで追求しようということでした。ですから、装画を描いた杉山巧さんにこの絵を依頼した時も、「この作品は絶対に直木賞を獲るから、そのつもりで心して描いてほしい。そのためには、私が気に入るものじゃないとだめだから、何度も描き直させることも覚悟してほしい」とお願いしたんです。


鈴木



 ────そうだったんですね!この装画とタイトルの見せ方にもこだわりがあったとうかがいました。

 装画は一見、野原のような雰囲気ですが、湧き上がってくるイメージなので、絵がタイトル文字の後ろにあるのではなく、空間的に存在しているように見せたいと考えました。映像ではなく二次元なので限界はありますが、どこかこう音の粒が立ち上がってくるようなイメージです。作業としては、絵の必要な部分、必要ない部分を取捨選択しつつ、タイトルの文字部分を作り上げていきました。


 ────紙、書体などにも、さまざまなこだわりが感じられますね。二段組みというところが気に入ったという読者からの声も聞こえてきますが。

 特にこだわって二段組みにしたわけではないんですよ。とにかく長編小説なので、「できるだけ文字が入るフォーマットで」と編集者に頼まれたので、それが二段組みだっただけで、あまり特別な意図はありません(笑)。文章そのものが読みやすいので、それもあって読者の方から「読みやすい」という評価をいただいているのではないでしょうか。

 オビは、もし直木賞を獲ったら下に「直木賞受賞!」という見出しがどかーん!と入るはずだと見込んで、太めにしました。白地に堂々と箔押ししたタイトルは、“大事なもの”感であったり、稀少性を演出したいなという意図。ある種の“間”が生かされて、品良くまとまったのではないかなぁと思います。本屋大賞まで獲ってしまったので、オビにびっしり文字が入ることになっちゃいましたけどね(笑)。

 表紙は真っ黒でぴかぴかのピアノをイメージしています。



鈴木

鮮やかなカバーを取ると、漆黒のピアノを思い浮かばせる本体が現れる



 ────これまで手掛けて来られた中で、一番お気に入りの作品はありますか?

 何だろう、やはり自分のことじゃないんですよね、どこか他人事と言いますか。人から頼まれたものを何とかする、という仕事なので。自分のことであればこだわりや執着も出てくるでしょうけど、そういうスタンスですから、自分が装丁した本を自分の分身のようには捉えていないからなのか、「一番」について考えたことはありませんね。

 いつかこの仕事を完全に辞めて、「そういえばあれは良かったなぁ」とか思うこともあるかもしれませんが、今はやはり「商品としてどうかと」いうことだけですね。


 ────好きな音楽や趣味があれば教えてください。

 どういうわけか、ピアノは家に2台あります。あくまで遊びの域で、とても人に聴かせられるような代物ではありません(笑)。リコーダーも演奏しますが、バロック音楽、特にバッハは好きです。聴く方では、ベートーヴェンやチャイコフスキーといった大きい音楽はあまり積極的ではありません。もっばらジャズとかハウスは聴いていましたが、仕事が仕事だけに、このところ音楽からは遠のいています。

 趣味は料理。1年ほど前から、出汁をとるのにはまっています。有名料理人のレシピを見て作ったりもしますよ。まぁ、化学の実験みたいなノリではありますが…。土井善晴さんのレシピで作るカレーは美味いですね!


 ────最後に、「蜜蜂」ファンの皆様にひとことお願いします!

 音楽を言葉にできるというのは、本当にすごいことだと思うので、この感動がひとりでも多くの方に広まってくれると嬉しいですね。


鈴木








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