細川俊夫の最新作は、能を題材にしたオペラ
《二人静 —海から来た少女—》と「セレモニー」
(曲目) 細川俊夫(1955-): 1. セレモニー — フルートとオーケストラのために(2021-22) 《二人静》 — 海から来た少女 —(2017) オペラ(1幕1場) 能『二人静』による 原作(日本語): 平田オリザ オペラ台本(英語): 細川俊夫 2. Prelude, “Sorrow Sea” 3. Where do I come from? – I was floating in the ocean… 4. Who is there? 5. Is that a poem or a song? 6. Stop! Hang on! 7. Dance 8. I was with child… 9. Where do I come from? – Far across the ocean, there is war… マリオ・カローリ(フルート、ピッコロ、アルトフルート)…1 ヘレン:イルゼ・エーレンス(ソプラノ)…2-9 静:青木涼子(能声楽家)…2-9 ハーグ・レジデンティ管弦楽団 準・メルクル(指揮) 録音:2024年3月14-17日 ハーグ(オランダ)Amare, Concertzaal
細川俊夫作曲オペラ《二人静 —海から来た少女—》は、私の音楽人生において最も大事な作品の一つです。2017年フィルハーモニー・ド・パリでのマティアス・ピンチャー指揮アンサンブル・アンテルコンタンポランとの世界初演後も何度も世界各地で演奏を行ってきました。台本は劇作家の平田オリザさんが能『二人静』を基に現代の物語に書き下ろしたもので、私は静御前の役を、ソプラノは難民の少女ヘレンを演じています。細川作品は能に触発されたものが多いのですが、謡は《二人静》で初めて使われ、今のところ唯一の作品です。謡がソプラノとオーケストラと一体になって響く本作品は今までにない新しい音楽だと思います。今回は2024年3月に美しい響きのAmareホールにて、初演のアンサンブル版より弦楽器を増員し、準メルクル指揮ハーグ・レジデンティ管弦楽団と録音を行いました。素晴らしいオーケストラとの共演はとても幸せな時間で、録音を聴く度に今でもその時を思い出します。静寂から生まれる深淵な響きに耳を傾けつつ、いまだに世界で続く悲しい出来事についても考える機会になればと思います。 ——青木涼子
能に強い関心を持つという細川俊夫はこれまでにも《班女》《松風》《海・静かな海》など、能を現代化したオペラを創作してきていますが、この《二人静》は、能の同名作品を基に、平田オリザが地中海に漂着した難民少女と静御前の悲劇を重ねて新たに脚色した日本語の物語によるものです。《大鴉》(2014)と姉妹関係をなす作品として、アンサンブル・アンテルコンタンポランの委嘱により作曲され、2017年にパリで初演されました。また2021年8月にはサントリーホールの「サマーフェスティバル2021」で日本初演が行われ、深い感動を呼んだのも記憶に新しいところです。アルバムでは初演者の能声楽家、青木涼子とソプラノのイルゼ・エーレンスが幽玄な世界を神秘的に歌い上げています。 フルート協奏曲「セレモニー」は、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団とアンサンブル金沢の共同委嘱により、2021年10月から2022年3月にかけて作曲、初演者エマニュエル・パユに捧げられました。細川はソリストを「人」、オーケストラを「自然や宇宙」と捉え、今回はシャーマン(呪術師)と彼が呼びかける世界を象徴する構図を採用しています。フルートを通じて「息=霊魂・精霊」が音となって現れ、5部構成の儀式的な音楽が展開されます。フルート奏者は、フルート、アルトフルート、ピッコロを持ち替えながら演奏し、最終的に自然に溶け込み「鳥」となるイメージで終わります。パンデミック中に作曲された本作は、終息への祈りも込められた作品です。 彼の友人にして良き理解者の準・メルクルが指揮するハーグ・レジデンティ管弦楽団は、ドラマティックな抑揚と繊細な音色を巧みにいかし、作曲家のイメージを余す所なく伝えます。 ※作曲者による日本語解説と、歌詞の日本語テキストが付属いたします。
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