これほど聴くものの心を浮き立たせてくれる演奏も、そうあるものではない。浦山純子さんのショパンとラフマニノフのピアノ協奏曲である。これまでも、ベートーヴェンやショパン、シューマン、ラフマニノフ、そしてドビュッシーやプーランクなどの作品 を録音、また柏木俊夫の「芭蕉の奥の細道による気紛れなパラフレーズ」を収録したユニークなアルバム『ヴォヤージュ』をリリースして話題を呼んだ浦山さんの、待ちに待ったコンチェルト・アルバムだ。 浦山さんの個性は傑出している。しっかりとした構成観に根差しながら壮大なスケールで描くショパンとラフマニノフは実にピアニスティックであり、輝かしい情景を携えて私たちを天空開豁たる境地に誘ってくれる。 それぞれ第1楽章でのダイナミックな駆動力や滾るような情熱は作品の生命力を鼓舞し、第2楽章でのデリカシー溢れる詩情は作曲家のロマンティシズムを彫琢して比類がない。運動能力の闊達な指さばきから繰り出される音の連なりや滑舌の良さは、華やかで魅力的なヴィルトゥオジティを醸し出す。何より心をくすぐるようなルバートや躍動するフレージング、絶妙なペダリングは、浦山さんの類稀なポテンシャルを物語っており、旋律の歌い廻しの巧みさは作品に著しい付加価値を与えているのだが、極め付きはその音色の多彩さである。ピアノを鳴らし切るように重厚な低音から、満天の星が降り注ぐように煌びやかな高音まで、その存在感は圧倒的、また玲瓏な音色、温もりのある風趣、くぐもった感触など色 とりどりの響きが混然一体となって見事に調和し、グラデーションのように移ろっていく様は鮮やかとしか言いようがない。さらに山下一史指揮仙台フィルが秀逸だ。山下は2012年3月まで仙台フィルの正指揮者を務めており、彼らのコミュニケーションは十全。ソリストを暖かく包み込んでサポートしつつ、なおスリリングな協奏的競演を展開している。昨今、CD等の販売実績は好調という訳では決してない。そういう状況下において、敢えてフルオーケストラ、それもライブ・レコーディングではなくセッション・レコーディングに臨んだ、アーティスト及び制作サイドの心意気や高く評価されてしかるべきである。かくて目眩くような音楽の愉悦が生まれた。いつも傍らにおいてじっくりと愛聴したいアルバムの誕生である。(解説:真嶋雄大)