2019/3/9(SAT)「サリエリムジカ」イベントレポート
文・写真:ナクソス・ジャパン
18世紀風ドレスをまとった林そよかさん(左)高野麻衣さん(右)
2019年2月に東京で開催された「サリエリナハトフェスト」から約1ヶ月後。
サリエリファンのためのイベントが、大阪でも開催されました。
会場は、老舗百貨店・大丸心斎橋本館の14階にある「大丸心斎橋劇場」。
プログラムは全2部構成。午後1時から午後5時近くまで、オペラ並みのボリュームでサリエリを味わいつくすイベント……ということで告知時点から話題を呼び、席はあっという間に完売。
関西在住の方にとどまらず、全国からサリエリファンが集う一大イベントになりました。
ピアノ演奏会✕トークイベント
サリエリムジカ ~音楽と砂糖の事ばかり考える日~
2019年3月9日
https://salierimusica.wixsite.com/teaser
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イベントは2部構成。第1部は、コラムニストの高野麻衣さん&作曲家・編曲家・ピアニストの林そよかさんによる「ウィーンとパリの宮廷クラシック」。
東京の池袋コミュニティ・カレッジで「お茶会クラシック」という定期講座を開催しているおふたり。遠く離れた大阪で、しかもいつもの何倍ものお客様を前にした大舞台ということで、気合もじゅうぶん。
おふたりがこのイベントにかける情熱を象徴するもの、それは……
開演前の高野麻衣さん、林そよかさん
ドレス!!
この日のために東京で探し当てたというドレスは、サリエリが一世を風靡した18世紀後半の誂えそのもの!
マリー・アントワネット、1783年
ともにマリー・アントワネットをこよなく愛し、最初に共演したのがマリー・アントワネットをテーマにした講座だったというおふたり。それだけに、このドレスをまとって舞台に登場する喜びはひとしおだったようです。
「最初、主催のヤスキハガネさんから「男装でお願いします」と言われて
「えっ……」とショックを受けちゃいました」──
マル秘エピソードを披露して笑う林そよかさん。
そんな第1部は、高野麻衣さんの朗読とともに幕を開けました。
「サリエリのウィーン在住50周年記念式典」をめぐるエピソードを朗読する高野さん
最近はさまざまなイベントで朗読を披露しているという高野さん。つややかな声が、サリエリの晴れの場に立ち会う女性、テレーゼ・ローゼンバウムの心情を語ります。
祝典は1816年6月16日に行われ、多数の弟子が列席した。サリエリの有名な肖像画で
首にかけられている金メダルは、同祝典でオーストリア皇帝から贈られたものだという。
(『アントニオ・サリエリ 歴史エピソードブック』P.10参照)
テレーゼ・ローゼンバウム(1774-1837)
サリエリの師フローリアン・レオポルト・ガスマンの娘であり、サリエリから
声楽を習う。ソプラノ歌手として活躍し、モーツァルトのオペラ『魔笛』の
「夜の女王」役を得意とした。
「6歳のクリスマスのときにモーツァルトのマンガ伝記をプレゼントされて、それを読んで以来ずっとモーツァルトに恋している」という高野さん。
サリエリファンが一堂に会する場を「完全アウェーですね」と冗談めかしつつも、愛をこめて、サリエリの記念式典のワンシーンをよみがえらせていきます。
朗読に続いて林そよかさんがピアノで奏でるのは、この式典に際して弟子シューベルトがサリエリに贈った「サリエリ氏のウィーン在住50周年祝賀曲 第2番」。シューベルトが作曲でギャラを得たはじめての作品だという説もあるそうです。
ピアノを奏でる林そよかさん
演奏に耳を傾ける高野麻衣さんは「女主人の気分です、フフフ」と妄想炸裂…!?
<第1部に登場したおもな作品>
※リンク先は林そよかさんの演奏音源ではありません
・サリエリ氏のウィーン在住50周年祝賀曲 第2番(シューベルト)
https://ml.naxos.jp/track/637803
・それは私の恋人(マリー・アントワネット)
https://ml.naxos.jp/work/4771046
・レクイエムより「怒りの日」「涙の日」(モーツァルト)
https://ml.naxos.jp/track/1439706
https://ml.naxos.jp/track/1439711
・レクイエムより「我を解放したまえ」(サリエリ)
https://ml.naxos.jp/track/867831
サリエリをめぐるさまざまな人物とエピソードを織り交ぜたおふたりのトークは、やがて、サリエリとモーツァルトの才能の話にもおよびます。映画『アマデウス』や他の創作作品の印象から、サリエリは凡才、モーツァルトは天才、というイメージが持たれていますが……
「大差ありません。サリエリとモーツァルトの共作といわれる『オフィーリアの健康回復に寄せて』も、さて、どちらが作ったでしょうと聞かれてもわからないと思います」
と、林そよかさんは語ります。さらに、
「サリエリとモーツァルトは、どちらも装飾音(トリル)を多用しています。これはロココ様式の特徴です。それから、長調の曲が多いのも共通しています。また、特にサリエリは、歌のアンサンブルの響きを大切にしているのが感じられます」
と、いくつかの作品から、具体的な例をあげて解説。
作曲家としても活躍されている林さんならではの分析。そして会場を湧かせたのは「トトロ変奏曲」!
誰もが知っている「となりのトトロ」のメロディを、サリエリ風、グルック風、モーツァルト風、ベートーヴェン風、シューベルト風、リスト風と、次々と「~風」に変奏していきます。
池袋コミュニティ・カレッジの人気講座「お茶会クラシック」でも恒例となっている、この「変奏曲」コーナー。お客様のリアクションもこの日いちばん。ギラギラした超絶技巧に彩られた「リスト風」では、こらえきれなくなったお客様の笑い声が…!
サリエリが生きた18-19世紀は、まだ録音技術も存在せず、オペラを生で観られるのも貴族やブルジョワなどごく一部の人に限られていました。中産階級の市民は、人気オペラのメロディを使ったピアノ作品や、そのメロディをアレンジした変奏曲を自宅やサロンで奏でて、オペラ作品のエッセンスを楽しんでいました。林そよかさんのパフォーマンスは、「サリエリの時代」を表現するのにまさにぴったりといえるでしょう。
サリエリの弟子ベートーヴェンが書いた「サリエリの歌劇「ファルスタッフ」の二重唱
「まさにその通り」の主題による10の変奏曲 WoO73」(1799年作曲)も、この時代ならではの作品。
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休憩をはさんで第2部は、日本で唯一のサリエリの評伝『サリエーリ 生涯と作品 モーツァルトに消された宮廷楽長』の著者であり音楽・オペラ研究家、水谷彰良先生の講演会。
サリエーリの音楽を語る水谷彰良先生
東京の「サリエリナハトフェスト」と同様、サリエリ──イタリア語の発音にもとづくと「サリエーリ」──の75年の人生を、彼の音楽作品をまじえつつ紐解いていきます。
「サリエーリがモーツァルトに勝るとも劣らない作曲家だったことを、ぼくは今日ここで証明したい」
そんな熱い想いを語る先生。最初に紹介した1曲は、サリエーリ20歳の若書きの作品である歌劇「アルミーダ」序曲(1771年作曲)。
「ベートーヴェンの先がけのような立派なオーケストレーションです。20歳でこれだけのものを書いたとは驚きです。サリエーリは先輩音楽家グルックのオペラの稽古のピアノ伴奏をつとめていたので、そのときにグルックの手法を学んだのだと思います」
根拠となる史実をまじえつつ、次々と音楽作品が紹介されていきます。
<第2部に登場したおもな作品>
※水谷先生が紹介された音源とは異なる場合があります
・オペラ「アルミーダ」序曲
https://ml.naxos.jp/work/6894756
・オペラ「花文字」(「無垢の恋」からの転用) – エウリッラのアリア「もう演奏して欲しくないわ」(サリエーリ)
https://ml.naxos.jp/track/2824273
・オルガン協奏曲 ハ長調 – 第1楽章(サリエーリ)
https://ml.naxos.jp/track/2266163
・ピアノ協奏曲 ハ長調 – 第2楽章(サリエーリ)
https://ml.naxos.jp/track/1482272
・オペラ「ダナオスの娘たち」 – 第5幕 イペルムネストルのモノローグとエール、アリア(サリエーリ)
https://ml.naxos.jp/track/2374770
・オペラ「トロフォーニオの洞窟」 – ラララ(サリエーリ)
https://ml.naxos.jp/work/118312
・オペラ「はじめに音楽、次に言葉」 – Aria: Via, largo, ragazzi – Scene 6: Recitative: Per carità, finite questa scena(サリエーリ)
https://ml.naxos.jp/track/3794165
・オペラ「ファルスタッフ」 – 第2幕第9場(サリエーリ)
https://ml.naxos.jp/track/352243
・サリエリ氏のウィーン在住50周年祝賀曲 第1番(シューベルト)
https://ml.naxos.jp/work/1069343
・オペラ「オテッロ」 – 第3幕フィナーレ(ロッシーニ)
https://ml.naxos.jp/track/826712
「今日、上演されるオペラは、現代的な演出がほどこされています。たとえ200年前に書かれたものであっても、「現代だったらどうなるか」ということを考えて演出されているのです。なぜそういう演出をするかというと、お客さんは現代に生きる私たちだからです。そして最近、サリエーリのオペラの上演機会が増えてきたのは、彼の作品には現代的な命を吹き込む余地があるからだと私は思います。だから、雑音に惑わされずに彼の音楽を聴いてほしい。もちろんきっかけはゲームでもかまいません」
だからこれからも、サリエーリの数々のすぐれた音楽作品を意欲的に紹介していきたい──と語る水谷先生。
そのご活動のひとつとして、先生がサリエーリの音楽作品を紹介する連載「水谷彰良の“聴くサリエーリ”」がスタート。第1回は、歌劇「アルミーダ」序曲を含む『サリエリ: 序曲集』の解説です。こちらもぜひお楽しみください。
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拍手に応える水谷先生、林さん、高野さん
ナクソス・ジャパン恒例の「サリエリ福袋」
(音楽ライター・白沢達生さんコメントカード付き)は今回も大好評。
音食紀行さんの書籍・同人誌、海藻さんのアクセサリー販売ブースも大賑わい。
「無事開催ができたことと、サリエリの音楽を聴いてみたいという方が増えたことを非常に嬉しく思っています」と、主催のヤスキハガネさん。
白沢達生さんも販売担当として立ち回ったナクソス・ジャパンのCDブースでは、サリエリはもちろんのこと、モーツァルト、グルック、ベートーヴェンやシューベルトほか、サリエリとつながりのある作曲家のCDを買い求めていく方が数多くみられました。
第1部&第2部のトークや演奏に触発されてお客様の好奇心が広がっていくのを肌で感じることができ、クラシック音楽のアルバムを多数扱うナクソスとしても感慨深いイベントでした。
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~水谷彰良先生の今後のご予定~
●朝日カルチャーセンター 新宿教室「サリエーリ復活 モーツァルトに消された宮廷楽長」2019年4月11日/25日
http://www.asahiculture.jp/course/shinjuku/952e6cb7-8c74-5baa-d590-5c4941ca4ad7
●日本ロッシーニ協会演奏会2019「ナポリからパリへの旅路──ロッシーニの芸術の粋を究める!」2019年5月5日
https://www.akira-rossiniana.org/news/