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コラム:水谷彰良の「聴くサリエーリ」




イントロダクション




 サリエリ(サリエーリ)ブームたけなわの今日このごろ。もはやファンのバイブルと称しても過言ではない『サリエーリ 生涯と作品』(復刊ドットコム)の著者、水谷彰良先生によるサリエーリ作品解説の連載がこのたびスタートいたします。

 創作作品のなかでは「神に愛されし者を殺す」者として登場する“サリエリ”は、実は誰よりも恵まれた(神に愛された)人生を歩み、作曲家として高く評価され、さらにベートーヴェンやシューベルトの師として尊敬を集めた人でもありました。「いい曲が多い」「映画『アマデウス』の「凡庸な作曲家」像は本当なのか」……そんな声も多数聞かれるようになっています。フィクションの“サリエリ”から史実の“サリエーリ”へ……すでにCDやダウンロード・アルバムをお持ちの方も、これからはじめて作品に触れる方も、ぜひ当ページの解説を読みながら彼の作品をお楽しみください。


 第5回は、サリエリ(サリエーリ)が作曲した『オーボエ、ヴァイオリン、チェロのための協奏曲』ほか、3つの協奏曲の解説をお届けします。



●第1回『サリエリ(サリエーリ): 序曲集』はこちら



●第2回『サリエリ(サリエーリ): 序曲とバレエ音楽集 1』はこちら



●第3回『サリエリ(サリエーリ): シンフォニア集と変奏曲集』はこちら



●第4回『サリエリ(サリエーリ): オルガン協奏曲と2つのピアノ協奏曲』は

こちら






第5回
サリエリ(サリエーリ):
その他の3つの協奏曲




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サリエリ:オーボエ、ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ニ長調/フルートとオーボエのための協奏曲 ハ長調/シンフォニア「ラ・ヴェネツィアーナ」
 Capriccio レーベル
 ラヨシュ・レンチェス(オーボエ)/ベーラ・バーンファルヴィ/(ヴァイオリン)/カーロイ・ボトヴァイ(チェロ)/ブダペスト・ストリングス



 

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Track 01-03
『オーボエ、ヴァイオリン、チェロのための協奏曲
ニ長調(1770年)』



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1770年、20歳前後で作曲したサリエーリ最初の協奏曲。自筆譜にタイトル頁が無く、正式な題名は不明。1963年ハンブルクで出版された初版楽譜は題名をドイツ語で『オーボエ、ヴァイオリン、チェロとオーケストラのための三重協奏曲、ニ長調(Tripelkonzert D-dur für Oboe, Violine, Violoncello und Orchester)』とするが、拙著『サリエーリ 生涯と作品』では自筆譜の独奏パート記載順に『ヴァイオリン、オーボエ、チェロと管弦楽のための協奏曲(Concerto per violino, oboe e violoncello con accompagnamento d’ orchestra)』とした。作曲年は自筆譜上部の記載に基づく。管弦楽の編成はオーボエ2、ファゴット2、ホルン2、ティンパニ、弦楽5部。
成立の経緯は不明だが、ウィーン宮廷オーケストラの優れた楽士をソリストに想定して書かれたものと思われ、三つの独奏楽器が対等に扱われる。次の3つの楽章からなる。

[Track 01] 第1楽章  ニ長調、4分の4拍子、アレグロ・モデラート。
冒頭、ヴァイオリン独奏が提示する伸びやかな旋律を(0:00-)、オーボエ独奏が4度下、チェロ独奏がオクターヴ下で引き継ぎ、トゥッティ(1:08-)を挟んで新たな主題が示される。その後短調に転じて変化をつけ(2:24-)、長調に戻って新たな音楽を開始する(2:58-)。冒頭主題のさわりをチェロがイ長調で弾き始める後半部(3:53-)は展開部に該当し、ヴァイオリンとチェロの独奏が敏捷なパッセージで対話を交わす。続いてヴァイオリンが冒頭主題をト長調で始め(5:15-)、自由な展開を経て三つの独奏楽器の小気味よいカデンツァ(7:53-)を挟み、華やかに終わる。

[Track 02] 第2楽章  ト長調、4分の4拍子、カンタービレ。
8小節の前奏(0:00-)に続いてオーボエ独奏が同じ穏やかなカンタービレの旋律を奏で(0:33-)、ヴァイオリンとチェロの独奏も加わって進行する。弦楽器のシンコペーションによる間奏を経て新たな旋律が示され、冒頭主題の再帰(3:50-)で始まる後半部の自由な展開が続き、独奏楽器のカデンツァを挟んで閉じられる。

[Track 03] 第3楽章 ニ長調、4分の2拍子、アンダンティーノ。
二部形式の主題(0:00-)と7つの変奏からなる終楽章。第1変奏をオーボエ独奏(1:02-)、第2変奏をシンコペーションのヴァイオリン合奏(2:04-)、第3変奏をヴァイオリン独奏(3:04-)、第4変奏を全合奏に委ね(4:02-)、第5変奏にチェロ独奏が活躍する(そこだけテンポがラルガメンテとなる)(5:07-)。第6変奏はスタッカートで奏するヴァイオリン独奏を中心に、ホルンも関与する(6:20-)。第7変奏は全合奏と3つの独奏楽器を交替させて進行し(7:18-)、フェルマータを挟んで3小節の短いアレグロで締め括る。

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『オーボエ、ヴァイオリン、チェロのための協奏曲』の
自筆譜(ウィーン国立図書館所蔵)






Track 04-06
『フルート、オーボエのための協奏曲
ハ長調(1774年)』



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1774年1月の師ガスマンの死によりウィーン宮廷室内作曲家とイタリア・オペラ指揮者のポストを得たサリエーリが作曲した、フルートとオーボエを独奏楽器とする協奏曲。自筆譜にタイトル頁が無く、正式な題名は不明。1963年ミュンヘンで出版された初版楽譜は題名をドイツ語で《Concerto C-dur für Flöte, Oboe und Orchester》とするが、拙著『サリエーリ 生涯と作品』ではイタリア語の表記《Concerto per flauto ed oboe con accompagnamento d’orchestra》を採用した。 成立の経緯は不明だが、独奏楽器の対話や協調を中心に爽やかな協奏曲で、作曲年は自筆譜上部の記載に基づく。管弦楽の編成はファゴット、ホルン2、トランペット2[註]、弦楽5部。自筆譜末尾に第三者の筆跡で書かれた第1楽章と第2楽章のカデンツァが添付され、現代譜は曲中にこれを挿入するが、この録音では演奏者が独自にカデンツァを作成している。 [註]自筆譜にはホルンとトランペットが一つの段に書かれており、ホルンの文字を削除した部分があることから最終的にトランペットのみとした可能性もあるが、指示は一貫していない。

[Track 04] 第1楽章  ハ長調、4分の4拍子、アレグロ・スピリトーゾ。
24小節の前奏(0:00-)に続いてフルートとオーボエが三度のハーモニーで軽快な主題を奏でる(0:48-)。二つの独奏楽器のやりとりで進行して前半を終えると、オーボエ独奏が新たな主題を提示し(3:08-)、フルートを交えて進む。第1主題や前奏の音型を用いて自由に展開し、カデンツァ(5:54-)を挟んでシンプルに締め括る。

[Track 05] 第2楽章  ヘ長調、4分の4拍子、ラルゴ。
弦楽合奏の主題(0:00-)をオーボエとフルート独奏が受け継ぎ、続いて印象的な下向旋律が現われ(1:50-)、穏やかに進んで前半を終える。後半部は冒頭主題の1部をフルートが奏でて始まり(3:21-)、もう1つの主題も交えて進み、短いカデンツァ(5:54-)を挟んで終わる。

[Track 06] 第3楽章 ハ長調、4分の3拍子、アレグレット。
2つの独奏楽器で始まるメヌエットの音楽による終楽章(0:00-)。ほどなくハ短調のオーボエ独奏による音楽が現われ(1:26-)、冒頭主題に戻るが(2:26-)、単純な反復ではなく、2つの独奏楽器が敏捷に対話する新たな音楽と冒頭主題の変奏を交え、カデンツァ無しに閉じられる。



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『フルート、オーボエのための協奏曲』の
自筆譜(ウィーン国立図書館所蔵)








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サリエリ:室内楽作品集
 Tactus レーベル
 パオロ・ポラストリ(オーボエ)/アマティ四重奏団



 

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Track 04-07
『室内小協奏曲[フルート小協奏曲]
ト長調(1777年)』



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1777年ウィーンで作曲されたフルートを独奏とする小協奏曲。独奏楽器の名技性を際立たせず小編成の弦楽合奏に溶け込ませた室内楽作品で、自筆譜を校訂したロルフ・ユリウス・コッホはオリジナルの題名を『室内小協奏曲(Concertino da camera)』として独奏楽器をフルートに限定せず、1977年パドヴァで初版楽譜を『フルート(またはオーボエ)と弦楽合奏のための室内小協奏曲、ト長調(Concertino da camera per flauto (o oboe) ed archi in Sol maggiore)』と題して出版した。作曲年は自筆譜上部の記載に基づく。伴奏の編成は弦楽四重奏(ヴァイオリンI・II、ヴィオラ、バッソ[チェロ])で、コッホは「独奏楽器と弦楽オーケストラのための協奏曲」もしくは「五重奏の協奏曲」として演奏しても良いとする。次の4つの楽章からなり、第3楽章は斜線でそっくりカットされた形跡がある(以下、フルートもしくはオーボエを“独奏楽器”と記す)。

[Track 04] 第1楽章 ト長調、4分の4拍子、アレグロ・スピリトゥオーゾ。
独奏楽器と弦楽合奏の付点音符による浮き立つような序奏と主題で始まり(0:00-)、ニ長調の新たな主題(3:27-)を経て、冒頭部の再現で閉じられる。

[Track 05] 第2楽章 ハ長調、4分の4拍子、ウン・ポコ・アダージョ。
独奏楽器によるカンタービレの抒情旋律を主題とする、自由な形式の緩徐楽章。

[Track 06] 第3楽章 ト長調、4分の3拍子、メヌエット。
優雅なメヌエット楽章。中間部トリオ(0:43-)はハ長調で、伸びやかな旋律を独奏楽器が奏する。

[Track 07] 第4楽章 ト長調、4分の2拍子、プレスト。
ピアノとフォルテを交換するリズミカルな序奏(0:00-)に続いて、独奏楽器が流麗な主題を奏する(0:21-)。中間部はヴィオラが新たな主題を提示し(1:09-)、冒頭の音楽を再現して閉じられる。



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『室内小協奏曲[フルート小協奏曲]』の自筆譜(ウィーン国立図書館所蔵)





付記
フルートと弦楽合奏による録音に、パトリック・ガロワ(フルート)、エマニュエル・クリヴィン指揮フランス室内合奏団(1985年録音Victor)があるが、フルートと第1ヴァイオリンのパートを自由に入れ替え、第2楽章と第3楽章の順序も逆になっていることから、本稿ではオーボエと弦楽四重奏による演奏をサンプルとした。





【執筆者】
水谷彰良 Akira Mizutani

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1957年東京生まれ。音楽・オペラ研究家。日本ロッシーニ協会会長。著書:『プリマ・ドンナの歴史』(全2巻。東京書籍)、『ロッシーニと料理』(透土社)、『消えたオペラ譜』『サリエーリ』『イタリア・オペラ史』『新 イタリア・オペラ史』(以上 音楽之友社)、『セビーリャの理髪師』(水声社)、『サリエーリ 生涯と作品』(復刊ドットコム)。日本ロッシーニ協会ホームページに多数の論考を掲載。

大阪よみうり文化センター 水谷彰良講演会「サリエーリ – モーツァルトに消された宮廷楽長」
9/23(月祝)14:00~16:00
https://www.oybc.co.jp/event_hq/detail_29934






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